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私の挑戦

3代目ふじ子/小泉 真穂




  3年前「釈迦内柩唄」(有馬理恵主演)を観るため三重県の桑名市に出かけました。主人公ふじ子の姉役に次回から出演のため、その下見のつもりでした。それがこの作品、そして薮内ふじ子との出会いでした。
 舞台を観終ると、私の心の中はぐちゃぐちゃになっていました。多くのことを感じたはずなのに、何に共感し、思い、感動したのか、自分で自分の心が全く分からないのです。感想を聞かれましたが、困ってしまい「私こういうの好きです」としか答えられませんでした。「好き」なんて言葉では片付けられないはずなのに、そんな言葉しか出てこない自分がとても恥ずかしいと思ったのです。何か自分の血がかきたてられ、逆流するような、そんな感覚を初めて味わいました。
 音楽や映画でも同じような感覚を味わったことはあるのですが、自分の許容範囲内のことで、それを越える感覚というのは初めてだったのです。

 最近の新聞に「素直になれない私」という女子高生の記事が載っていました。彼女は今まで生活するのに何の問題もなく、いわゆる普通に育ってきましたが、ふと「私って一体何なんだろう」と思った瞬間『私』という特徴がないのに気づいたのだそうです。私は彼女にとても親近感を覚えました。私自身もまた、あたり障りなく、普通に育った人間だからです。いつも誰かに合わせ、本当の自分を押さえ込んで生きてきました。
 そしてそれが「私の姿」になってしまい、「本当の自分」があることすら忘れてしまいました。その結果、私の心は麻痺してしまい、何かを感じても、それが何であるか分からなくなってしまうのです。

 「釈迦内柩唄」は第二次大戦から戦後間もない時期を背景にしています。この時代、多くの日本人は、自分で自分の心を麻痺させてしまったのではないだろうか、そうしなければ生きていけないほど追いつめられていたのかも知れません。そんな中でも焼場(オンボ)の弥太郎家族は真正面から自分の心と、世間にぶつかっていきます。どんなに差別され、蔑まれながらも自分の「体に刻みこむ」ようにしながら生きようとするのです。そして自分自身の生きる道を探し出すのです。 私も一人の役者として、この主人公、ふじ子という生命に立ち向かうつもりでいます。