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出会い

希望舞台の出会い

四〇年ぶりの再会…

大阪府高槻市

…そして初対面

 電話の向こうで思いがけない声「エエッ!、昔の統一劇場ですか。懐かしいな〜、それはやらなくちゃ、僕、昔、静岡にいる頃取り組んでいるんです。」「アラ!、静岡の何処ですか?」「伊豆のM町です。でももう40年近く昔のことですよ」「私もその頃静岡でした。伊豆というとすぐ甦る忘れられない議員さんがいます。議員さんというより、熊か炭焼き小屋のおじさん、という感じの方で一見恐い印象なんだけど、親切で誠実な方でした。M町だったように思うのです…。」「いましたよS議員ですよ。彼から声をかけられて、当時青年団活動をやっていたものですから、『同胞』の映画と同じですよ。大変だったけど夢中になって取り組んで当日は駐車場の係だったからどんな舞台だったか覚えていないけど楽しかったことだけは覚えていますよ」懐かしさに高ぶった綾部さんの声を聞きながら鮮やかに甦るあの夜のこと、今でも満月の美しい夜にはときおり甦るあの日のこと。
 まだ二十歳を過ぎたばかりの頃だった。公演地をつくる為にバスや電車を乗り継いでM市に行った。他の町から紹介されたその議員さんを訪ねた。すでに夜になっていた「この田舎町で演劇なんか観る人いないぞ。けれど山の向こうに話を聞いてくれそうなのがいる連れて行ってやるから今夜はそこで泊めてもらえ、、、」とそのモソっとした議員さんが云う。心細かったけど行くしかない。かれのバイクの荷台に乗せられ、どんな山奥でも舗装されている今日と違ってガタガタの山道を振り落とされないように必死にしがみつきながら峠に向かった。お尻は痛い。ほこりは浴びる。山の頂きに着いた時、一休みとなった。
 澄んだ夜空に見事な満月が山々とはるか裾野に広がる集落を照らし出していた。降り注ぐ月光に我が身まで洗われるようだった。清涼として文句なく美しかった。思わず叫んでしまった。「ウワーッ、素敵!こんな景色をいつもみられるなんて、いいなーッ!」先程までの心細さなんか何処かへ飛んでしまっていた。『熊議員』さんは云った。「景色では喰っていけないからよ」、私は恥ずかしくて消えてしまいたかった。
 あれから40年近い歳月が流れた。あの夜のことは、あの時の山頂の空気まで甦る。けれど私の軽薄さは変わっていない。そして日本の四季折々の美しさがやっぱり私を有頂天にしてくれている。あの議員さんは今、どうしていらっしゃるのだろうか…。
 数日後に会った綾部さんは当時、青年団員、今は年金者の組合の役員さん。初対面だったけれど三十数年前、あの峠の向こうに彼はいた。お互いに忘れがたき青春のひとときだった。
 高槻市の公演はそんな不思議な出会いが織りなした劇場だった。

記・玉井 徳子 (2006.09.01発行 つうしんNO.40より)