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しあわせな小屋

熊本県山鹿市

~八千代座を受け継ぐ心~

 熊本県山鹿市に明治時代に建設された八千代座という芝居小屋がある。全国の芝居小屋が無くなって行く中、なぜ八千代座が残ったかというと地元の老人会の方々が守ったのだという。子供の頃通い詰め、芝居等来るのを楽しみにしていた小屋が雨漏りが酷くなり朽ちていく姿を見ておれず、「瓦一枚運動」で募金を募り、屋根瓦を修復。復興のキッカケになったそうだ。そして今や国重要文化財となった。
 八千代座の石橋さんにこの話しを伺った時、本当に愛着があり心から存続を願ったお年寄りの手で守られた事に感動した。この八千代座に案内して下さったのが八千代座伝統文化の会の事務局、常法寺住職の佐々木さんでした。佐々木さんはお寺の教えを伝える布教師もなさっており今は珍しくなった節談説教というものを復活させようと努力なさっていた。初めて聞かせて頂いた時、高座にちょこんと座り、落語でも始まるのかな?という感じでしたが、あっという間に御門徒さん方の心をつかみ笑いが溢れその後、節談に涙していた。まさに劇場だった。

 一人で苦労していた九州上演を心配して下さり、人を紹介して下さったり、時には一緒に歩いて下さった。公演が決まった時には自分の事のように喜んでくれて又、困難な時には一緒に立ち上げてもくれた。そして八千代座での上演は、横浜公演観劇で確信した佐々木さんとの共通の願いとなった。ある日、八千代座の会議に出席させて頂いた。今後の八千代座の運営についての真剣な話しだった。そんな中、石橋さんが「建物を守る事はある意味たやすいが、八千代座を守ろうとした人達の心を受け継ぐ事がたやすい事ではないのだ」と、そして伝統文化の会の宮川さんは「自分が本気で八千代座を復興したいと思ったのは青年会議所が閉鎖されていた八千代座に十数年振りに芝居をよんだ時の事。その時におじいさんが『この小屋でもう一度芝居を観れるとは…これで八千代座が助かる…』と涙を流していた姿を見た時だ」と…そんなにも愛されている小屋があるなんて!

 その八千代座での「おばあちゃん」公演が実現する日がいよいよ来た。木戸口を通って枡席になっている座席に座りはじめ賑やかである。幕開きから拍手がおこり、客席後ろから続く花道から役者が登場するとざわめき役者はうれしそう。笑い、うなずき、涙を流し、小屋が私達を優しく包み体の一部になっていくような今までにない不思議な体験だった。

 この二年間、さまざまな苦労を共にして下さった同志、佐々木さんは客席後ろで泣きっぱなしだった。終演後、お客さんは「役者と一緒に写真を!」と八千代座の前で楽しい賑やかな一時が続いた。伝統文化の会の吉田さんが「今まで、色々取り組んできて、買ってくれた方に『ありがとう』と言われたのは初めてだった」と。そして八千代座の使い方に目を光らせ、終日、見守って下さっていた石橋さんは、「八千代座が喜んでいた」との言葉を伝える為に普段参加されない打ち上げに来て下さった。そんな風に石橋さんに守られている八千代座は何て幸せなんだろう!
 「いい小屋がいい役者を育てる」まさに、そんな一夜となった。

記・荻原 ゆかり (2005.01.01発行 つうしんNO.37より)