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希望舞台の出会い

幸せの感じ方

島根県隠岐の島町

 昨年の1月11日朝10時、NHKラジオのラジオビタミンに「釈迦内柩唄」主演の有馬理恵が出演する機会をもらった。「なぜ私は釈迦内柩唄を演じ続けるのか…」と熱のこもった話は終了後、全国各地から「どこで公演が観れますか?」「ラジオを聞いて是非観たいと思いました!」等々びっくりする程反響があった。

 このラジオを、島根県松江市より海を渡って北に60キロ、隠岐の島に住む1人の女性が聞いていたのだ。その方は高梨洋子さん。開業医をされている高梨医院の奥さんだ。普段はカーラジオを聞く事もないそうだが、たまたまスイッチを入れたら有馬さんの声が飛び込んできて、引き込まれてしまった。希望舞台の所在を探しあてて、この舞台を観たいという想いを綴って手紙をくださったのだ。

 失礼ながら、今まで隠岐の島の存在を知らなかった私。どんな島だろう?高梨さんはどんな人だろう。とワクワクしながら2月の日本海をフェリーで渡った。島に着いたら高梨洋子さんが迎えに来てくださっていた。
 5人の子どもを産み育てたとは思えない程、小柄で華奢だが、全国各地のマラソンン大会に出場するバイタリティー、自分が東京に行って芝居を観るのはたやすいが、せっかくなら島の皆と共有したい!と、溢れる行動力と想いを聞いて納得。まず、会わせたい人がいると向ったのは知的障がい者援護施設『仁万の里』だった。そこで所長をなさっている早川秀敏さんに会う。大柄で人を包み込むようなやさしい笑顔が印象的な方だが、『仁万の里』の学園祭の写真を見ると、女装姿で踊っていたり…かなり楽しい方のようである。夜の宴会の約束をしてひとまず高梨家へ。

 「荻原さんに蟹を食べさせてあげたいな~」と話をしていたら1時間後、蟹が山の様に玄関に!!島の漁師さんが話を聞いていたかのように持って来てくれた。当たり前のように支え合って生きている姿が見える。アワビに新鮮なお刺身、ウニとアワビの炊き込みご飯と…高梨さんの島の素材の手料理が並ぶ。
 高梨さん夫妻、早川さん、島の人気者のたっちゃん、歯が一本もないのに、なんでも食べれちゃう大工?の坂本さん。「ようこそ隠岐の島へ!」と、まずはカンパイ!
飲んで、語って、食べて…高梨ドクターがギターをつま弾き始める…皆で歌い、あぁ…なんだかすごく楽しいよ~!初めて島に訪れた私を歓迎し、もてなしてくれようという心が溢れている。仕事の事をすっかり忘れ、幸せな夜は更けていった…。

 明朝…ビール、焼酎、ワイン、隠岐の地酒『隠岐誉』2升が空いていた。「夕べ私…舞台の話、してました?」「大丈夫、ところどころしてたわよ~」蟹のおみやげまでもらい、あれ?こんなに楽しんだだけで帰っていいのかな~…と思いつつ、幸せな気持ちで島を後にしたのです。

 この幸せな気持ちは何だろう…この心の奥に灯るあたたかさは何だろう…と島を離れながら考えていた。

 隠岐の島には劇団がある。「劇団たいよう」だ。早川さんを中心に『仁万の里』の職員と入所する仲間による演劇サークルとして活動をスタートし、今は地域の演劇集団として、障がいがある人もない人も共に、いのちを響かせ合う場にしようと活動している。地元の高校、松江市はもちろん、何と、東京公演までしている。高梨さん夫妻もギター、朗読で参加されています。
 『劇団たいよう』の話になると、3人とも本当に楽しそうで、次々と話が飛び出してくる。
 高梨ドクターは、初めて『仁万の里』を訪れた時、誰が障がい者で、誰が健常者なのか分からないぐらい分け隔てのない雰囲気で感動したと。練習が終わると囲炉裏端を囲んでお酒も飲んだりして、話をすると誰が障がいがある人なのか、余計分からなくなるんだよ~と笑いながら話されます。
 高梨洋子さんは、ある日、仁万の里を出る時「高梨さん、雨が降っているから気をつけてね」と言ってくれる人がいて、掛け値なしの優しい言葉に涙が出たと。普段、そんな事言ってくれる人いないもの~。と高梨ドクターをチラリ!?
 「私達は自分たちを健常者だと思っているけど、平気で約束をやぶったり、人を傷つけたり…障がいって何?健常者って何?と、考えさせられます。私自身が何者であるかを教えてくれる人たち。そんな感じがする」と。
 医師である自分でさえ『劇団たいよう』に関わるまでは、偏見があったという高梨ドクターは、本当に愛おしそうに仲間の事を話してくれる。私達はどうしても日々、取り繕いながら生きているが、障がいのある人には、自分を繕うとしない生の人間の迫力がある。「次の台詞が出るかドキドキなんだけど、その間がなんとも観客を引きつけていいんだよ~」

 あぁ…あの幸せを感じたのは初対面の私を、心から深い愛情で受け入れてくれた事を感じたからなんだなぁ…
 公演当日はもちろん『劇団たいよう』の面々も観劇に来てくださり「自分達ももっと頑張らなきゃ!」と言ってくれたそうだ。

 あぁ~また隠岐の島に行きたいな…皆に会いたいな…隠岐の島観光大使ではありませんが、是非、一度、訪ねてみてもらいたい場所です。

記・荻原 ゆかり (2012.01.20発行 つうしんNO.49より)