釈迦内

希望舞台.com

釈迦内guest

「釈迦内柩唄」メッセージ

「死を包む愛」

信州大学名誉教授、松本大学前学長
信州渡来人倶楽部代表世話人
中野 和朗

 誰にもいつの日か必ず死がやってきます。死というのは、突然やってくるのではなく、実は、私たちは生まれたときから体内の奥深く秘かに死の種を宿し、それが歳とともに育っていき、成熟しきったとき柿の実がポタリと落ちるようにやってくるもののようです。
 ですから、生と死は共生していて、死はもっとも近しい生涯の同伴者なのです。ところが、普段、私たちはそのような認識はもたず、むしろ死は、怖ろしく忌み嫌うものとして遠ざけています。もっとも近しい生涯の同伴者と疎遠であることによって、私たちの一回限りの短い人生はたいへん曖昧で危険なものになってしまうようです。 感動を生む言葉や行動はつねに愛からのみ生まれるものです。先ごろ、「おくりびと」という映画を観て特別な感動を受けましたが、その感動は「死を包む愛」だと表現してもよさそうです。
 水上勉の「釈迦内柩唄」というお芝居「おくりびと」と同じように「死を包む愛」の感動が観る人の心を突き動かさずにはいられません。さらに、作者は「この世には忘れてはならないことというものがあって、人間である以上は、何ども何ども語りつがねばならないことはあるものだ。戦争というものを二度と起こしてはならないならば「花岡事件」は、日本人として忘れてはならないことの一つだ」と、この著作の「あとがき」に書いています。
 これからすると、あの狂気の軍国主義を復活させ、愚かしく残酷な戦争への道を二度と再び歩いてはならないというのが、作者の熱いメッセージなのかもしれません。ともあれ、このお芝居を一人でも多くの人に観ていただき、「死を包む愛」の感動を一人でも多くの方に共有していただきたいと願っています。
市民タイムス 松本市
09・6・21