釈迦内

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焼け跡からguest

「焼け跡から」メッセージ

「焼け跡から希望の道を」

理論社創業者・作家
小宮山 量平

 西村滋さんの新書「戦火をくぐった唄」を、舞台化するという。それにあたってメッセージを寄せて欲しいとのことだった。
 西村滋さんの代表作「お菓子放浪記」はわが理論社からの出版でもある。西村さんは九才で両親と死別し戦争孤児達と共に絶望のなかを生きて来た。親も住む家も突然に失った子ども達は焼け野原の中を『野良犬』の様に生きなければならなかったはずだ。大人でさえ餓死していた時代である。保護者を失った子ども達の絶望は察するにあまりある。しかし彼の作品は明るいユーモアとやさしさに満ちている。
 私は今の時代は若者にとって頼るべきものが無いと言う点で、敗戦直後の浮浪児たちの生きた時代に似ていると思っている。「浮浪児」は消えた言葉だが実態は今も消えていない。むしろ現代の方が絶望の深刻さは深いと思う。それは人の心と心が繋がり合うことの出来にくい環境がメカニックに作り出されているからだ。何万年の単位でゆっくりと進化して来た、人間の生理は、急速に進化するインターネット等の電子機器のスピードに適応出来ず、ゆっくりと考えたり味わったりする余裕がなくなってきている。
 戦後の焼け跡に放り出された西村さんは絶望の中で、しかし振り返ると希望の道を歩んで来ている。何がそうさせたのか、それは人との出会いとつながりこそが西村少年を希望への道に導いてくれたのだ。
 私自身も幼児の時、親と死別して祖父母に育てられた。十三才の時に信州の佐久から誰も知る人の無い東京に出て、第一銀行の給仕として採用され、重役だった渋沢敬三氏(渋沢栄一の孫)のお抱え給仕となった。その御縁が私の人生の扉を開けてくれる事になる。大人の温かな眼差しが子どもの「童心」を育んでくれる。おかげで私は「童心ひとすじ」の人生を歩ませていただけた。
 絶望の深い時代に、希望舞台が挑むこの作品の舞台化に期待せずにはいられない。
二〇一〇・四・二八 
談話より、文責 玉井